witten by 嶋田智之
世界中
うんうんする
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9月23日から25日にかけて行われた、ローマ・ラリーの取材に行ってきた。mCrtことムゼオ・チンクエチェント・レーシング・チームと眞貝知志選手の初めての海外ラリーへの挑戦をベッタリくっついて追うことで、彼らが生み出すドラマを余すことなく伝えること、そして蚊帳の外からじゃなく内側から見つめてレポートすることで、ラリーというちょっとばかり解りにくいところもあるスポーツをクルマ好きの皆さんにもっと知っていただけるようにすること。
 
メディアでのレポートは、まずは僕の古巣でもある“Tipo”の10月6日発売の11月号、Tipo編集部が作った10月30日発売のムック本、“FIAT & ABARTH MAGAZINE”、それからアバルトのライフスタイル系公式WEBマガジンである“SCORPION MAGAZINE”(http://www.abarth.jp/scorpion/scorpion-plus/6554)に速報というカタチですでに掲載されているので(だけど書いてることは皆ちょっとずつ違ってるよー)、もしかしたら御覧になった方もいらっしゃるかも知れない。
 
けれど、今回の取材の大本命といえるのは、同じくTipoに3ヶ月続きの短期集中連載となるインサイド・レポート。それが11月5日発売の12月号からスタートした。ちょうどいいタイミングなので、スペースに限りのある雑誌の誌面では伝えきれなかったこと、しかもココをもうちょっと知っておくとインサイド・レポートがよりリアルに感じられることを、補足的にお伝えしようかな、と思う。
 
それは何かというと……、
 
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道、である。
 
ローマ・ラリーはイタリアのナショナル選手権の第6戦にあたる競技で、確かにローマを拠点に行われるのだが、実際のSS(=スペシャル・ステージ/速く走れば速く走るほど偉い全開タイム・アタック区間)のコースのほとんどが、ローマ近郊40〜100kmほどのところにある山岳地帯に設けられている。その山岳地帯の村と村を繋ぐ生活道路みたいなところを閉鎖して、タイム・アタックが行われるわけだ。
 
ちなみに上の写真はローマから40km少々のところに設けられた市内に最も近いSSの、それもまだ全然頂上に達してない途中から下界を撮ったモノ。中央から向かって左下の2本の線みたいなのはコースの下の方の部分である。このSSを一気に駆け上ってくる。
 
その道ってのが、なかなかのクセモノだったのだ。フツーの速度でフツーに走ってるとどうってことないっちゃーどうってことないのだけど、速度域が上がって攻め込んで走ろうと思うと、途端に違った表情を見せるのである。
 
そもそも大前提として、これはまぁイタリアだけに限ったことじゃないのだけど、道の構造が日本とは想像以上に違う。例えば高速道路の出口。日本だったら本線から出て料金所のブースへ向かうような場面だ。そういうところでは大抵の場合、道幅は広くとられているし、曲がり具合もわりとなだらかに設計されていたりするものだけど、そういう配慮はあんまりない。というか、本線から外れたらいきなり道幅が絞り込まれて狭くなったり奥に行くに従ってコーナーがギュッとキツくなってたりするのも珍しくない。一事が万事そんな感じで、つまりどういうことかといえば、道路の設計がそれほど安全に配慮したものではないってこと。
 
いや、そういう表現は正しくないか。日本の道路の設計が、世界的に見てもトップ・クラスといえるくらい安全に配慮したものになっている、というのが正しいだろう。僕も仕事柄あっちの道を走ることが少なくないのだけど、フツーに走ってて「うあ、ここ危ねえなぁ……」とか「うひゃー、飛ばしてなくてよかったー」と感じられること多々、なのである。
 
それは単純に道の曲がり方だとか幅の大小の変化の問題。それに加えて、あっちの道は日本と較べてかなり路面のμ(=ミュー/摩擦係数)が低い。というか、これまた“日本の路面のμが高い”と表現するのが正しいだろう。つまりあっちの路面は日本と較べて基本的にタイヤのグリップが低い、滑りやすいと考えてもらっていい。その上、これだ。
 
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これはちょうど下界を見下ろす写真を撮ったコーナーなのだけど、写真の右奥の方から駆け上がってきてコーナーを抜けて左の奥の方に向かっていくまでの間で、舗装の種類が3あるのが判るだろう。つまりμが3種類で、そのたびにタイヤのグリップの仕方が変わる。晴れた日にフツーのスピードで走ってる分にはどうってことないけど、雨の日で路面がウエットだったり、あるいは速度域を上げて攻めて走ったりすると、だいぶ走りにくい。というか、たぶん結構怖い。
 
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しかも、だ。もちろんスムーズなところもあるのだけど、多くは古くから使われ続けてる生活道路がベース。荒れている箇所が多い。この写真のクルマの右側の路面を見ていただきたいのだけど、凹凸が幾つもあることが判ると思う。ここはまだどちらかといえば穏やかな方で、こうした凹凸、大きなうねり、小さなうねり、あるいはそれらの複合技(?)が絶え間なく続く道も少なくなくて、そういうところではレンタカーでフツーに走っていても上下とか斜めとかに揺さぶられて、思わず速度を落とす。勢いよく走っていこうとすると、跳んだり跳ねたりする。それは低速で曲がるコーナーだけに限ったことじゃなく、おそらく120km/hとか130km/hとかで抜けていかないと勝負にならないような高速コーナーでも一緒だったりするのだ。
 
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そのうえ、だ。この写真は地形の関係でずっと登ってるように見えるかも知れないけど、実はちょうど一番曲がってるところ辺りがボトムで、そこから先は登り、その手前までは下り。写真を撮っておけばよかったと後悔してるけど、実はここに至る直前の道は、競技中は軽く100km/hオーバーだろうと思われる高速のS字が続いてて、路面には大小のうねりが散りばめられている。
 
つまり競技車両は跳んだり跳ねたりしながらとんでもない勢いで下りのS字を抜けてきて、視界が開けたと思ったらいきなり路面のボトムで、そこを超えてサスペンションが伸びようとしてるところで逆バンク気味の激しい左ターン……だ。膝丈ぐらいの石を積み重ねたガードの向こうはいきなり崖。速度を落としきれずにまっすぐ突き進んだらそのまま綺麗さっぱり崖から落ちる、という仕組みである。
 
そんなところが山ほどある。先が見えない登り道があって、登り切ったと思ったら次の瞬間には直角にターンしてたりするようなところだって、ちっとも珍しくない。道路というものの作り方というか、道路に関する考え方みたいなものが、根本的に日本とは違ってるのだ。全てがそうだとは言わないが、日本では極力そうした危険な作りになることを避けようとしながら道路を敷いていくのが常識となっていて、海外から帰ってきて日本の道を走るたびに“ああ、やっぱ日本の道は走りやすいなぁ……”と感じたりする。
 
もちろん世界の中でも断トツ級にスムーズな日本の道にも競技で走るには固有の難しさがあるのだろうとは思うけど、少なくとも僕はあっちの山道を全開で攻めて走ってみたいとは思わない。“楽しい”よりも“恐ろしい”が先に立つぐらい戸惑うし、めちゃめちゃリスキーに感じられるからだ。
 
全日本戦では頂点級のところにいる眞貝選手とパートナーであるコドライバーの漆戸あゆみ選手も、あっちでのラリーは初めてだったわけだから、そうしたちょっと踏み込んでみないと実感として解らない路面環境には、同じように戸惑ったことだろう。それが今回のローマ・ラリーでの彼らの戦いに大きな影響を及ぼしたのだと僕は思う。
 
そんなことを意識しながら、できれば今ちょうど書店に並んでいるTipoを手にとって、インサイド・レポートのページを読んでみていただけたら嬉しい。
 
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競技当日には封鎖されてさすがにこんなふうに出てきたりはしないだろうけど、コーナーを抜けたらランボルギーニが道端にいたり、
 
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フェラーリが道を塞いでたりして、驚かされたりもした。本番のときに姿を現さないにしても、路面には彼らの糞が落ちてたりすることもあって、それを踏んでズルリと滑ってスピン→クラッシュ、なんてことだって考えられないわけじゃない。何と恐ろしいコースなことか。
 
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SSのコースを登り詰めていくと、道の両脇にこんな光景が広がっていたりする。ハイジはどこにいるんだ? ペーターはどこだ? いや、なんちゅーか……もうほとんど「ローマって言うな!」って感じである。
 
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これは競技本番の2日前、レッキ(下見走行)の途中の眞貝選手と漆戸選手。ふたりの表情にゆとりは感じられない。……そりゃそうだろう、と思う。プロだからこそ、いかに困難な局面に自分達が向かっているのかということを、実感として悟ったのである。
 
 
これは本番初日、SS4(4番目のスペシャル・ステージ)をスタートするときの、mCrtのアバルト500ラリーR3T。同じR3クラスのライバル・マシン達と較べて、明らかに遅い。すでにマシンの設計は古くなっているし、規定内で他のマシンより排気量が200cc小さくて、パワーも軽く50ps以上劣ってる。1kmあたり1秒遅い、と言われてる。いかに“ジャイアント・キラー”のアバルトといえど、勝ち目は薄い。
 
 
それでもローマ市内の歴史的建造物、労働文明宮で行われたSS1、スタジアム形式のスーパーSSでは、全日本チャンピオン経験者としての引き出しを開けまくり、ライバルから1本とって観客席を大いに湧かせたりもした。
 
その眞貝選手が、この13日の日曜日に“あいち健康の森公園”で開催される『あいちトリコローレ』にゲストとして登場してくれて、実は僕・嶋田と皆さんの前でトークをしてくれることになっている。これはもう聞かない手はないでしょー。
 
そんなわけなので、皆さんもぜひ遊びにきてちょーだいましっ。……あ。次回のTipoのインサイド・レポート、これもまた必読だよー。めちゃめちゃドラマティックな展開を、眞貝選手と漆戸選手が見せてくれたから。
 
あれやこれや、お楽しみにねー。
 
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嶋田智之【tomoyuki.shimada】
エンスー自動車雑誌『Tipo』の編集長やスーパーカー専門誌『ROSSO』の総編集長を務めた後、フリーランスとして独立。「クルマ」と「ヒト」を仕事の柱として、モノ書き/編集者として活躍中。カーくるではお馴染みのイベント「ミラフィオーリ」「トリコローレ」などでゲストMCを務め、親しみのあるざっくばらんな語り口調の「居酒屋系自動車トーク」が人気。
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