witten by 嶋田智之
世界中
うんうんする
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一度気に入ってしまうと何かのハズミでもっと気に入るモノに出逢わない限りはそればっか……という習性が、僕にはある。だから牛丼といえばヨシギューに決まってるし、中華そば食べたいと思ったら世田谷の “ふくもり” に行こうと考えるし、コーヒー豆はタンザニア、それもうちの近所にある “DUN AROMA” が焼く深煎りで、デニムといえば児島の “ハイロック” ってな具合。

そして靴はどうかというと、『ネグローニ(negroni)』のドライビングシューズばかりである。コンバースのハイカットとローカット1足ずつ、レッドウイングのブーツ1足、スーツ系に合わせる革靴2足、ビーサン3足……以外は、すべてネグローニだったりする。

今ではもうだいぶメジャーな存在になってるから御存知の方も少なくないと思うけど、ネグローニは日本が誇るドライビングシューズ専門メーカーである。僕はここの作るドライビングシューズがものすごーく気に入ってるのだ。なぜならば、まず第一にペダル操作が抜群にやりやすい。それこそ名前を聞けば「マジ?」とモータースポーツ好きの誰でも一発で判っちゃうぐらいのレーシングドライバー達やモータージャーナリスト達、自動車メーカーの開発者といったドライビングのプロにも愛用者が多いという事実から、その辺りは察していただくことができるかも知れない。

それに、普段履きをしていて疲れない。ドライビングシューズといえば海外ブランドのモノが今も主流ではあるのだが、それらは甲高幅広の多くの日本人の足には合いにくいし、それ以前に“歩く”“立ち続ける”ということを前提にしていないものも多い。でも、ネグローニの作るモノはそれらとは大きく異なっていて、日本人の足形に合わせてカタが作られ、ていねいにハンドメイドされている。だから履きやすくて歩きやすく、イコール、疲れない。

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加えて、使われている革もとても上質で、デザイン性もかなり高い。ネグローニではレザースニーカー、スリップオン、タッセルスリップオン、モンクストラップ、チャッカブーツなど、様々なタイプが用意されている。もう少し突っ込んだ話をするなら、それら定番ラインナップのほか、それぞれのタイプをベースにしてレザーの種類やカラーの組み合わせ、ステッチの糸の色、ヒモ、カシメといったディテールなどを自分の好みで仕上げてもらえるオーダーシステムもある。全てではないけれど、僕の持ってるネグローニも大抵はディテールを好みに合わせて変更してもらった “自分スペシャル” だったりする。例えば、写真のブラウンの方はお宝の中のお宝で、素材そのものが今ではほとんど手に入らないというウルトラ最上級のバッファロー革で作られている。赤い方は本来ならカカトの部分がカーボンレザーになるところを同色のバックスキンに変更してもらってる。クルマのドライビングが大好きな人間としての、ちょっとした贅沢だ。靴底が磨り減ったりしたらレストアも受け付けてもらえるから、長く使えるしね。

つい先日、僕はひさしぶりにネグローニのファクトリーに遊びに行ってきた。クルマ好きの靴製造メーカーの当主として「日本人に合った高品質なドライビングシューズを作りたい」とネグローニ・ブランドを作り上げて2014年のまさにその日に亡くなった先代の、奥様にして現社長。その跡継ぎにして現在のネグローニを牽引する息子くん。アットホームなスタッフさん達。彼ら彼女達といろんな話ができて、とっても楽しい時間を過ごすことができた……んだけどね……。

話をしながらふとオフィスを兼ねたショールームの展示物を見渡してるときに……ん? 何だコレ!?

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このタイプ、サイドの編み込みの部分って白黒のチェッカードフラッグ模様がデフォルトで、そこが同色になってるモノなんて、これまでなかったじゃん!

しかもっ!

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近頃、真っ白なシューズが気持ちの中でのマイブームになってる僕にとって、マジでビリビリ来るようなカラーのものまでできちゃってるし!

……あれ?

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こんなカタチをしたドレッシーなヤツ、あったっけ? しかも色味がめちゃめちゃ綺麗じゃん!

……ちょっと待った!

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ネグローニはスニーカー・タイプでもだいぶオトナなテイストでそこがよかったりするわけなんだけど、ここまでオトナを極めたようなデザインのヤツ、初めて見たぞ!

……ん?

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これってカタチはこれまでのスリッポンと同じに見えるけど、素材、全然違ってるでしょ。革、めちゃめちゃクオリティ高いじゃん。しかも色味は全部、やっぱり絶妙に綺麗だし……。

いったい何なんだよー。新製品のオンパレートじゃん! 見たことないヤツばっかじゃん!

……お? このシンプルなデザインのは何ぞね? 女の子好みな感じだけど……?

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と思ったら、これは某シンプル系フランス車にインスパイアされたレディスのラインで、しかも現時点ではリリースするかどうか決まってないプロトタイプ。これ、売ったらいいのに。どっちにしてもハンドメイドなんだし、ここまでデザインも仕上がってるなら、その気になればいつだって作れちゃうでしょ? 彼女がいるならプレゼントしたい靴だよなー。

……とまぁ、そんな感じに話も楽しい目も楽しい時間を過ごさせてもらい、次にお願いしたいブツも心の中でソッと決めて、とてもいい1日だった。長くおつきあいさせていただいてるからっていうこともあるけど、ここんちは皆さんホントにいい人達なのだよね。これからもずっとおつきあいさせていただきたいって感じてるのは当たり前のこと。

でも、ここの人がことが好きっていうのと、ここのドライビングシューズを使い続けたいと考える理由っていうのは、これは申し訳ないんだけど別のお話。ここんちのドライビングシューズのペダル操作のしやすさは、僕にとってはそれまで使っていた幾つかのブランドのモノをあっさり忘れさせ、のめり込ませるだけのモノを持っていて、それは今後も続いていくだろうな、と確信しているからなのだ。クルマの運転を生業にしている身として、ここはコダワリを持ちたいところ……というか執着してしまうところだ。

僕はこれまで雑誌のコラムだとかイベントのトークだとかで、ドライビングシューズについてこんなふうに説明してきた。

例えば仮に600psのクルマを走らせるとする。そして、そのクルマのスロットルペダルの踏み込みの深さが10cm、つまり100mmであると仮定する。そしたら、600ps÷100mm=6ps/mm、っていう計算が成り立つでしょ? どういうことかといえば、スロットルペダルの深さ1mmに対してエンジンのパワーは6psということだから、ペダルを1mm踏み込むと6ps、2mm踏み込むと12ps、3mm踏み込むと18ps、5mm踏み込んだら30psで10mmなら60psだ。

そしてタイヤが持ってる能力の限界ギリギリで踏ん張りながらコーナーを曲がっているとして、もしスロットルペダルをパコッと5mm踏んじゃったらどうなるだろう。……予想できるでしょ? そう、一気に30psが余分にかかったことでタイヤは一気にグリップ能力の限界を超えてズルッと滑り、はいサヨーナラ、なんてことになりかねないってわけだ。

まぁ実際にはエンジンのパワーの出方って全ての回転域で均等ってわけでもないし、クルマによってその特性も様々だし、スロットルペダルの踏み込みの深さだってもちろん様々だし、そのときに選んでいるギアがひとつ高いか低いかでも全然違うわけだから、この計算にはそれほど大きな意味あるわけでもない。ないんだけれど、でも、ここには間違いなく真実が潜んでるのだ。スロットルペダルを踏み込み過ぎちゃうことによってパワーが余分に発散され、クルマがスピン→クラッシュに陥ること、少なからずあるのである。しかもエンジンのパワーが大きくなればなるほど、本来的にはクルマの反応はシビアになっていく傾向があると考えていい。

昔、フェラーリF40にスピン→クラッシュが続出したことは“魔性のクルマ” としての伝説を彩る紛れもない事実なのだけど、そのスピンの理由はここにあるし、現代のスーパーカー達の素晴らしくよくできた電子デバイスを OFF にしてスピン→クラッシュへと陥ってしまう人がいる理由もここにある。ペダル操作の正確性については、いくら意識してもし過ぎということはないのである。

そうなると、ペダル操作を行うためのシューズというものの存在が重要になってくる。底が厚くて固いアウトドア用ブーツだとか滑りやすい革靴だとか、たまに見掛ける女性のハイヒールだとかでは、いくらデリケートな力の入れ加減を試みたとしても、それはペダルになかなか正確には伝わらない。多くの人が好むスニーカーもまずまずだとは思うけど、やはりペダル操作というものを考え抜いて作られているドライビングシューズに敵うものはない。サッカーをするときにスニーカーよりも専用スパイクの方がいい、っていうのと何ひとつ変わらないわけだ。それに正確なだけじゃなくて、正確に操作できることの気持ちよさがものすごく大きな充足感に繋がるっていうのも、僕がドライビングシューズを常日頃から履いてることの理由のひとつだ。

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そんなわけなので、僕としてはどうしてもお気に入りのネグローニをオススメしちゃうのだけど、とはいえ、どこででも買えるものじゃないのは確か。最も手っ取り早くて最も柔軟な対応をしてもらえるのは、ネグローニのファクトリー兼ショールームに足を運んじゃうことだ。そこでは全てのラインナップを見ることもフィッティングしてみることもできるし、カスタムメイドの相談にものってもらえる。素材や構造などについて説明を受けながら、実際にハンドメイドでていねいに作られてる現場を覗くこともできる。パーキングスペースだって確保されている。遠方にお住まいの方で東京への出張などのときに立ち寄りフィッティングだけして、後から WEB の通販で購入する方というのも意外と多いそうな。

日曜日がお休みだったり、スタッフが不在の日があったりするし、あるいは東京以外のイベントに出店することも少なくなくてそっちで手にとったりフィッティングしたりできるチャンスもあるから、とにかくまずは電話してあれこれ訊ねてみてちょーだいまし。気持ちよーく対応してくださるのは間違いないから。

◎ネグローニ・リバーサイド・ファクトリー
東京都荒川区南千住8-5-9 はなみずき通り北弐番館102号
tel.03-3801-4745

◎ネグローニ・オフィシャル・ウェブサイト
 
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嶋田智之【tomoyuki.shimada】
エンスー自動車雑誌『Tipo』の編集長やスーパーカー専門誌『ROSSO』の総編集長を務めた後、フリーランスとして独立。「クルマ」と「ヒト」を仕事の柱として、モノ書き/編集者として活躍中。カーくるではお馴染みのイベント「ミラフィオーリ」「トリコローレ」などでゲストMCを務め、親しみのあるざっくばらんな語り口調の「居酒屋系自動車トーク」が人気。
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