witten by 嶋田智之
世界中
うんうんする
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隣のオヤジがジープを買って、そろそろ1年が経つ。
 
住んで10年が経ったマンションに隣接するオヤジの家の駐車場には、僕が引っ越してきたときにはすでに中古だった某日本メーカーのミニバンが収まっていて、途中からもうちょっと新しい中古のミニバンに替わったのだけど、どちらのときも滅多にクルマが出動することはなく、洗車されることもなく埃をかぶり、玄関横にくり抜かれるように設けられてるその空間の中は、いつ見てもショボくれた感じだった。
 
出掛けや帰り際にときどきバッタリ会う隣のオヤジも、ショボくれた感じだった。いや、ルックスがどうとか、そういう話じゃない。挨拶をしても目を合わすことなく下を向いてボソボソと言葉のようなモノをこぼすだけ、雰囲気にもパリッとしたところはどこにもなく、笑顔というものを見たことがない。お子ちゃまと一緒にいても関心があるのかないのか、お子ちゃまの言葉にもあまり機嫌がいいとは思えないような受け答えをする感じ。そんなだからお子ちゃまの方も見事に元気がなく、オヤジ同様に疲れ切ってるのか諦め切ってるのか、ちょっと陰性な匂いのするショボくれた小学生といった印象だった。
 
だから隣のオヤジの駐車場に、黒いジープ・ラングラーが停められてるのを発見したとき、僕は腰が抜けるほどビックリしたのだった。だって、隣のオヤジとラングラーのイメージが、あまりにも結びつかなかったから……。
 
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だが、驚くのは早かった。あれから1年が経とうとしてる今、僕はあれやこれやを思い出して、しみじみと驚いている。
 
まず、オヤジは笑うようになった。あんた笑い方を知ってたの? という感じで最初のうちはちょっと不気味だったが、笑顔を浮かべるのを見掛けるようになった。スーパーマーケットの売り場に並んでるサカナのような印象は、全くしなくなった。
 
駐車場が空になることが多くなった。きっとミニバンだった頃と違って、オヤジはクルマに乗って出ることが好きになったのだ。
 
オヤジがクルマを洗ってるところも、比較的しばしば目撃するようになった。おそらく2週間に1回とかのペースで洗ってる。バケツとホースで、ていねいに手洗いしてる。いったいどこを走ってきたのか、ときどき泥だらけになった車体を洗ってることもある。
 
そうしたときのオヤジは別人かと思うくらいにニコやかで、楽しそうで、ちょっとばかり快活だ。こっちが挨拶をする前にハリのある声が飛んできて、面食らったこともある。
 
オヤジがそんなだから、お子ちゃまもどこかの家の子と交換したのかと思うくらい明るくなった。オヤジにホイールの洗い方を教わりながら、キャッキャッと声をあげて笑ってる。家族で出掛けて帰ってきたときなんて、助手席から降りたかと思ったら特徴的なフェンダーをポンポンと叩き、ヤケに誇らしげな表情でクルマを見つめてた。
 
オヤジがお洒落になった。ヨレヨレのジャージで外に出てくることがなくなった。というか、オヤジ一家全員がお洒落になった感じで、週末にはアウトドアっぽい雰囲気の服に身を包んで総出でどこかに行ったりしてる。オヤジ以上に陰が薄かった奥さんも、意外やかわいらしい雰囲気のママだったことが判るくらいに明るい振る舞いだ。そういえば家の中から笑い声が外に聞こえてくるようにもなっている。
 
同じ隣のオヤジ一家とは、とても思えない。まるで宇宙人に家族全員が乗っ取られて別人格になるSF映画みたいな、ホントに驚くべき変わりようなのだ。しかもそれは、全てここ1年以内のお話。隣のオヤジがジープを買ってからの変化なのである。
 
クルマには、そういうチカラが、間違いなくあるのだ。人の心を変え、表情を変え、暮らしを変え、生き方を変え、人生そのものを素晴らしい方向へと導いてくれるチカラが、間違いなくあるのだ。
 
クルマのメディアに関わる人間として、僕はそうしたクルマの持つ幸福なチカラを、もっとちゃんと伝えていかなきゃいけないのだな、とあらためて思った。数値化できない領域だし“心のカタチ”というのはとても伝えるのが難しいものだし、受け手としても基準や指標がない分だけ理解しにくいものなのかも知れないけれど、それを押してでも僕達は伝える努力を惜しんではいけないのだな、と思う。
 
今回は、基本はあんぽんたんではあるけれどときとしてマジメにモノを考えることもある、という証として──。
 
そんなわけなので、今度の日曜日に愛知県のモリコロパークで開催される『ミラフィオーリ』のトークでは、その反動でマジメじゃない方向に弾けます。竹岡 圭ちゃんをミチヅレにして。
 
皆さん、覚悟しといてくださいねー。っていうか、遊びに来てくれないとダメですよー。
 
◎イベントの概要はこっちこっち。 → http://goo.gl/2xtkxf
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嶋田智之【tomoyuki.shimada】
エンスー自動車雑誌『Tipo』の編集長やスーパーカー専門誌『ROSSO』の総編集長を務めた後、フリーランスとして独立。「クルマ」と「ヒト」を仕事の柱として、モノ書き/編集者として活躍中。カーくるではお馴染みのイベント「ミラフィオーリ」「トリコローレ」などでゲストMCを務め、親しみのあるざっくばらんな語り口調の「居酒屋系自動車トーク」が人気。
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